(け‐6)“ K ”が無い!?
オーケストラや弦楽アンサンブル・吹奏楽などの楽譜には、指揮者の見るスコアにも演奏者の見るパート譜にもそれぞれ同じ場所に「練習番号」もしくは「練習記号」というものが打ってあります。「練習記号」の場合は“A”から“Z”までのアルファベットをフレーズの変わり目ごとに付けてあります。これを利用することで練習が効率良く進むのです。例えば指揮者の人がメンバーに「じゃあ“C”からお願いします」と言って指揮棒を振ると、全員が一斉に同じ場所から演奏を始めることができるのです。・・・このことで、次のような事があったそうです。これはヴァイオリンの秀子先生から聞いた話です。
秀子先生が学生時代に京都市交響楽団にエキストラとして演奏参加していた時のことです。その時の曲は現代作曲家が書き下ろした新作で、楽譜にはところどころに不備があったそうです。
指揮者の若杉弘氏が「では皆さんで“K”からお願いします」と言って棒を振り上げた時、トランペットのYさんが「すみません“K”がありません!」と言ったそうです。「なに? トランペット“K”が無い?」「はい、トランペットに“K”がありません!」。
この瞬間、団員全員が「ワッハッハッハー!」と床を踏み鳴らして笑い、中には涙を流しながら笑った人もいたそうです。
実はYさんは京響でも有名なハゲ頭で、彼の頭上には毛(けえ)が一本も無いのです。これには秀子先生も笑いをこらえるのに困ったそうです。指揮者の若杉さんは東京の人なので訳が解らなかったのでしょう。ひとりキョトンとしていたそうです。
・・・あれからウン十年経って京響のメンバーもすっかり入れ替わりましたが、今でもこんなほのぼのとしたシーンはあるのでしょうか。なお、指揮者の若杉弘氏は2009年に74歳の若さで亡くなられています。ここに謹んでご冥福をお祈り申し上げます。