(こ‐7) 甲陽園と 香櫨園と ホットドッグ
このブログで何度か、若い頃 西宮の夙川に下宿していたことを書きました。浪人と大学一回生の計2年間のことです。“夙川に下宿” と書きましたが住所は “西宮市神楽町” で、国道2号線沿いにある下宿のアパートを西に少し歩くと夙川の土手に出ました。その川沿いの遊歩道を北に歩くと阪急の「夙川」「苦楽園」「甲陽園」の駅が、逆に南に歩くと阪神の「香櫨園(こうろえん)」の駅がありました。
浪人時代にこの遊歩道を甲陽園から香櫨園まで、よく歩きました。春には桜が満開になり出店や屋台がたくさん出て数多くの人で賑わうこの夙川の土手も、普段はバギーを押した若い夫婦や犬を散歩させる飼い主がチラホラ歩いているような落ち着いた遊歩道です。途中の土手下にある満池谷には「火垂るの墓」で有名になったニテコ池もありました。
そして、夙川と2号線の交わる橋のたもとにはホットドッグの移動販売車がいつも出ていました。 “移動販売車” といっても今の “キッチンカー” のような洒落た車ではなく、軽ワゴン車の後ろのハッチバックを上げて “ホットドッグ” と書かれた旗をぶら下げただけの車で、黄色い車体に「風月堂」と書かれていました。私は散歩の時には必ず買いました。注文を受けてから作り始めるので少し待たされましたが、出来立ての熱々の袋を持つと何か幸せな気分になりました。。阪神香櫨園駅を通り過ぎてなお南に歩くと砂浜にでました。香櫨園の浜です。右手の小高い丘の上にサナトリウムの西宮回生病院があり、左手の砂浜奥には戦時中の砲台跡がありました。そして目の前は大海原です(と言っても大阪湾ですが)。夏には海水浴客で賑わうこの砂浜もやはり普段は犬を散歩させる人が歩いているだけの落ち着いた海辺でした。ここで海を見ながらホットドッグを頬張ったのが、時間がたっぷりあったからこそ味わえた浪人時代の美味しくもほろ苦い想い出の味です。
ところが大学に合格して通い始めると、嬉しいことに近くの京都会館(現・ロームシアター京都)横の疎水にかかる橋のたもとに、あの黄色いホットドッグの販売車が出ているではありませんか。その佇まいは、あの夙川にかかる橋に出ていた車と同じです。味も同じでした。カリッと焼いた大きなコッペパンにカレー味の千切りキャベツと少し焦げ目のあるソーセージが挟んである、“あのときの味” です。ただ、合格して嬉しいためか “ほろ苦さ” は感じなくて、逆にそれが少し寂しかったです。
ところでこの風月堂の販売車は今もあるのでしょうか?。調べてみたら、何と50年後の今でも琵琶湖畔や八幡市の空き地などに時々 “出没” しているようです。見かけたら “ラッキー” なので、ファンは必ず買うそうです。私も、いつか何処かで出会えたら買って、懐かしの味をかみしめてみたいです・・・。