雄さんの昭和ひとりごと (ぬ-7)

(ぬ‐7) 滑 瓢

 「ぬらりひょん」と読んで、妖怪の名前です。皆さんは「ざしきわらし」という子供の妖怪をご存知でしょうか?。漢字で「座敷童」と書き、例えば子供を部屋に10人集めたはずなのに、数えると11人いる。集めた人数よりも一人多いので不思議に思って一人ひとりを確認しても、全員が顔見知りの子である。でも、やっぱり一人多い・・・。そういう時は「ざしきわらしが混じっているから」と言われます。“ざしきわらし” は、その存在が不思議に思われない妖怪なのです。

 表題の「ぬらりひょん」という妖怪は、言ってみれば “大人の ざしきわらし” なのです。夕方、家族が忙しくてバタバタしていると勝手に部屋に上がり込んで、お茶を飲んだり煙草を吸ったりしてくつろぎますが、家族は誰も気にしないで “この人がここに居るのは当然だ” と思ってしまう 妖怪なのです。ざしきわらしは可愛い子供の姿をしていますが、ぬらりひょんはお坊さんと蛸を足したような不気味な風貌らしいです。

 この 他人の家に勝手に上がり込む妖怪の話を読んだときに、私は子供時代のことを思い出しました。実家は小さな電器店を営んでいたので 店舗は道に向かって常に開いていました。すると近所のMさんが勝手に居間に上がり込み、あぐらをかいて新聞を読み、淹れてもらったお茶を飲むのです。私が小学校から帰ると、ほぼ毎日その状況でした。不思議なので両親に聞くと、隠居して暇だからあちこちの家に上がり込んでその家の新聞を読み、うちには夕刊を読みに来るらしい、と言ってあまり気にしていないようでした。まあ、何事にも大らかだった昭和30年代のことなので許されたのでしょう。思うに、昔はこの “Mさん” のような人が沢山いたので “ぬらりひょん” という妖怪が考案されたのではないでしょうか。