雄さんの昭和ひとりごと (ろ-7)

 (ろ‐7) 路線バスの旅 と ローマの休日

 ひところ「ローカル路線バス 乗り継ぎの旅」という番組が、TV東京(関西はTV大阪)で放送されていました。出演は歌手の太川陽介さんと漫画家の蛭子能収さんとマドンナ的女性タレントの3人で、ルールは定められた出発地から目的地までの三泊四日の旅を路線バスだけを乗り継いで移動するというものでした。途中のルート選択はリーダー格の太川さんを中心に出演者が自分たちで決め、県境などでバスの繋がっていない所は歩いて乗り継ぐという、とても過酷な旅でした。でもその真剣さが視聴者に通じたのか、常に高視聴率を誇っていました。しかしその後、地方の路線バスが全国的に縮小・廃止されて行く中で、この番組もいつしか終了してしまったのが残念です。

 さて、私がもうひとつ書きたいのは、書籍としての「路線バスの旅」です。トラベルジャーナル社が1995年に出版した「大阪路線バスの旅」「京都路線バスの旅」「東京路線バスの旅1・2」の4冊です。いずれも25名程の著名人が自分で選んだ路線バスに実際に乗ってその感想を書くという内容で “えっ この人が?” という著者もいます。例えば「京都~」では華道の家元の池坊由紀さんや茶道家元の千澄子さん、評論家の多田道太郎さんや作家の寿岳章子さんなどが、また「大阪~」や「東京~」では非常に個性的な(言い替えるとアクの強い)人たちが、それぞれの持ち味を発揮しながら素敵な “路線案内” をしてくれているので 思わず乗りに行きたくなります。

ひとつ例を挙げると、初期の “探偵! ナイトスクープ” を企画した京都大学出身の朝日放送プロデューサー 松本修氏の “大原行き市バス” を書いた「京都大原三千院 昔のロマンよ、もう一度」という話です。

「学生時代、京都は 東京や横浜など “東国の乙女たち” で溢れ返っていた。それは国鉄のキャンペーン “ディスカバージャパン” と、女性雑誌 “アンアン” や “ノンノ” の “京都特集” の影響であった。なかでも デュークエイセスの歌う “女ひとり” に刺激された乙女たちが乗った大原行きのバスはどれも満員で、京都駅前から乗った時、すでにそこは東京の “租界” であった」と。そして「あの “ローマの休日” で 王女のオードリーヘップバーンを案内した新聞記者のグレゴリーペックと同じように、私たち京都の学生は誰もが “東国の乙女たち” を案内したのであった」と。しかし「もう一度グレゴリーペックになろうかなと、今回久しぶりにそのバスに乗ったが乗客は少なく言葉も関西弁ばかりで、寂しい限りであった」という内容でした。

この文章から更に30年経った現在はどうでしょうか?。市バスは満員ですが、言葉は東京弁や関西弁どころか “インバウンド” の影響で、中国語などの外国語で溢れ返っています。また逆に、観光と関係のない場所では利用者が少なくて無くなってしまったバス路線も多いようです。なので、せめてこの本を読んで30年前のバスの風景に思いを巡らせたいと思います。なお新刊書店にはもう置いてないので、読んでみたい方は図書館や古書店を探すかネットで購入する、あるいは声を掛けて下されば私の手持ち本をお貸ししますよ。