(な‐2)「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思ふ」
名随筆「特別阿房(あほう)列車」冒頭の言葉である。著者は、大学教授でありドイツ文学者であり、小説家であり夏目漱石の弟子でもあった内田百閒(1889~1971)。あの黒澤明監督の映画「まあだだよ」のモデルになった人でもある。そして彼は「元祖鉄道マニア」及び「伝説の乗り鉄」でもあった。「目の中で汽車を走らせても痛くない」ほどの鉄道好きである彼は、思い立つとお供を連れてふらりと汽車に乗った。世に言う「阿房列車」である。うらやましい・・・。さて、現代の我々が目的もなしに列車に乗りたくなったらどうすれば良いでしょうか?。ひとつ方法があります。「選択乗車制度」。A駅からB駅へ行くのに二つのルートがある場合、途中下車をしなければ遠いほうのルートを通っても運賃は短いほうのルートで計算されるというJRの制度で、俗に「大まわり乗車」と呼ばれているものです。「途中下車をしない」というのは駅の改札口を出ないということです。例えば環状線で大阪から隣駅の天満まで行く場合、外回りでひと駅乗るのと内回りで天王寺経由で乗るのと、同じ「初乗り運賃」で改札を出られる、ということです。時刻表の路線図を見るといろいろなルートが考えられ、実際に長大なルートを実行するマニアの人も多数いるそうです。まあ、我々の暇つぶしの場合は次のようなコースが適当ではないでしょうか(ある本の受け売りですが)。大阪(東海道線)京都(奈良線)奈良(関西線)天王寺(大阪環状線)天満。途中お腹が空いたら、駅によってはコンビニや駅弁・立ち食いそばがあります。明石や神戸の人の場合は、加古川(加古川線)谷川(福知山線)尼崎というルートも考えられます。ただ、加古川駅の「改札内改札口」を通る時に駅員さんにルートの説明をする必要があります。また自然災害などで不通になっている場合もあるので、実行する前には確認するほうが良いでしょう。なお、乗車中に車掌さんが検札に来たらルートを書いた紙を見せると大丈夫らしいです。「なんにも用事がない」内田百閒は、一等車に乗り一流旅館に泊まりの大名旅行でしたが、我々の場合はリーズナブルに行きましょう。