雄さんの昭和ひとりごと と_5

(と‐5) トルソー

 自宅にトルソーが一体あります。「トルソー」とは頭部や手足のないマネキン人形のことで、妻が時々洋裁をする時に使います。このトルソーで思い出すのがミュージカル「ウェストサイド物語(1961・米)」です。ヒロインのマリアがお針子として働く洋服店に夜、恋人のトニーを招き入れて二人で「結婚式ごっこ」を行います。たくさん並んだトルソーやマネキンに、仕立て中のモーニングやドレスなどの礼服を着せて両親や友人たちに見立てて、その前で二人が「誓いのキス」をするのですが、頭上の天窓の「さん」がまるで十字架に見えて、とても厳粛な雰囲気でした。しかし、観ていた私は二人が不憫で涙が出てきました。この「ウェストサイド物語」はレナード・バーンスタイン作曲の「社会派ミュージカル」で、プエルトリコ系移民に対する偏見や差別を非難する話です。

物語は、ニューヨーク下町の「ウェストサイドストリート」で対立する二つの若者グループ「ジェット団」と「シャーク団」を中心に展開します。ジェット団は白人系、シャーク団はプエルトリコ系です。トニーはジェット団の元リーダーですが、今は真面目に働いています。そしてマリアはシャーク団のリーダーの妹です。つまり、敵対するグループ同士から生まれた恋なのです。20世紀の「ロミオとジュリエット」と言われるこの物語、果して結末はどうなるのでしょうか。当時のアメリカは「白人至上主義」が支配していて、国策としてアフリカ系アメリカ人(黒人のこと)を差別しており、それをやめさせるためにキング牧師たちが「公民権運動」を展開していました。しかし差別を受けていたのは黒人だけでなく、肌に色があるプエルトリコ系アメリカ人や東洋系アメリカ人(日系二世など)の人たちも差別を受けていたのです。このミュージカルは、そういった時代背景を基にして作られた物語なのです。まだの方は一度観て下さいね。