(せ‐5)青年は荒野をめざす
作家の五木寛之氏が「週刊平凡パンチ」に1967年の3月から8回に渡って連載した青春小説である。「平凡パンチ」は当ブログの(へ‐2)でも紹介したように若い男性向けの雑誌なのでグラビア写真などが中心だったが、こういう真面目な小説も掲載されていたのだ。主人公の北淳一郎は大学進学をやめて、これまでジャズ喫茶でトランペットを吹いて貯めたお金でヨーロッパへ「自分探し」の旅に出る。そして行く先々で人生経験を積んで成長し最後は帰国せずにアメリカへ向かう、という物語である。五木氏は前年の1966年に書いた「さらばモスクワ愚連隊」で作家デビューしたのだが、1965年に行ったソ連(現ロシア)を中心としたヨーロッパ旅行での経験を基に上記二篇の小説を書いた。当時は、ミッキー安川「ふうらい坊留学記(1960)」や小田 実「何でも見てやろう(1961)」などのルポルタージュや見聞記が日本の若者に海外への憧れを抱かせたが、1ドルのレートが360円だったり、ビザがなかなか発給されなかったりで、一般の人が自由に海外に出ていける状況ではなかった。せめて物語を読むことで、行った気になったのだ。ところで、同名の「青年は荒野をめざす」という歌もある。作詞 五木寛之・作曲 加藤和彦・歌 ザフォーククルセダーズ、1968年の曲である。前回(す‐5)で紹介した「昴(1980)」と「サライ(1992)」も若者が故郷を捨てて旅立つ歌である。12年ごとの巡り合せで、三曲とも申(さる)年の歌である。申年は人に「旅心」を抱かせるのでしょうか?。